ビジネスとして農業の魅力や可能性を伝えたい | NKアグリ株式会社 代表取締役社長 三原 洋一氏(後編)

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インタビュー<前編>では、三原さんが未経験から農業ベンチャーのNKアグリを立ち上げるまでの経緯をお聞きしました。<後編>では、野菜の水耕栽培事業を軌道に乗せるまでの試行錯誤の日々や、農業の未来についてお話しいただきます。

三原 洋一| みはら・よういち

LED照明開発のベンチャー企業などを経て、2009年にノーリツ鋼機グループの新規事業開発を担うNKリレーションズ株式会社(現NKリレーションズ合同会社)に転職。同年、NKアグリ株式会社を創立し、まったくの未経験から野菜の水耕栽培事業をスタート。3年で事業を軌道に乗せ、現在ではこの分野で国内有数規模へと成長させる。2012年より現職。

数値化しきれないところに野菜作りの面白さがある

―親会社のノーリツ鋼機とは違う、NKアグリの新たな社内カルチャーをどのように作っていったのですか。

目標の捉え方から、根本的に変えました。レタスは種をまいてから1か月半ほどで収穫できます。今までのノーリツ鋼機の仕事の進め方であれば、受注が見込める分だけ、つまり1か月半後に確実に売れる分だけ種をまいて作る、というのが通例でした。NKアグリではそうではなく、営業担当者が立てた1か月半先の売上目標に合わせて野菜を作っていく、というやり方に変えました。たとえ不確実性のかたまりであっても、定めた目標の達成に向けて全社で動いていく。そのように思考を転換したのです。

当時は私を含め8人の小所帯なので、生産担当者と営業担当者は、互いの努力や苦労も間近に見えます。一蓮托生のワンチームとして、今できることを一緒に考えていこうとみんなに呼びかけました。とはいえ緊張感やプレッシャーは常にありましたね。収穫した野菜は、余っても在庫を持ち越すことができないからです。

―試行錯誤がありながらも3年で事業を軌道に乗せられました。成功の秘訣は何だったのでしょうか。

農業の経験もノウハウもまったくない私たちは、自分たちで一から集めたデータに頼るしかなかった。それが結果的によかったのかもしれません。データをもとに自分たちなりの大胆な仮説を立て、栽培の現場で身をもって体験しながら実証を試みる。そのサイクルを繰り返し、ハウスの環境制御ルールを作り上げていきました。既存の「常識」がなかったからこそ、一から新たに育成ノウハウを積み上げることができ、それが私たちの強みになっています。

一方で、農業はすべてを定量化できるものではなく、前回とまったく同じ条件で栽培しても、同じ出来になるとは限りません。人を育てるのと同じですね。定量化しきれない部分はセンスで補うしかなく、それが農業の難しさであり面白さでもあります。データに基づいて判断する部分と、人が判断する部分、その両方のハイブリッドで農業に向き合う。それが私たちの基本姿勢です。

もう一つ、効率や生産性だけを追求できない点も、農業の特色です。例えば、野菜をノーストレスで早く効率よく育てたとしても、いいものはできません。なぜならストレスに対して野菜が防御反応で蓄える物質が、人間にとっての栄養になるからです。NKアグリの野菜工場を、あえて一定の紫外線ストレスが入る造りにしているのはそのためです。

NKアグリが自社で生産・販売を行う野菜ブランド「AQUA LEAF」

やり遂げた「武勇伝」は支えになる

―NKアグリを率いるトップとして三原さんが心掛けていることは何ですか。

会社の成長と同時に、個々人のキャリアの形成にも寄与したいという思いが大きいですね。現在14人いる社員は、バックグラウンドも年齢も入社の目的もそれぞれ異なります。さらに言えば、人生で何をかなえたいのかもそれぞれ違います。心掛けているのは、日頃から密にコミュニケーションをとり、各自が何を実現したいと考えて仕事に臨んでいるのかをきちんと理解すること。その上で、一人ひとりが「NKアグリで私はこれを成し遂げた」と自信を持って人に言える、いわば「武勇伝」を作れるよう、手助けをしたいと思っています。何かをやり遂げたという自信は、この先のキャリアを通して自らの支えになるはずです。

また、自分自身を正直に見せることも、意識していることの一つです。良いところだけでなく、悪いところも含めてみんなに受け入れてもらえてこそ、リーダーでいられると考えるからです。だから悩んでいることも率直にみんなに話します。私自身の原動力は「収益を上げてノーリツ鋼機グループに貢献したい」「農業の現状に一石を投じたい」というこの二つ。できるだけシンプルに自分の思いを伝え、その上でみんなの原動力が何かもしっかりと把握できるよう、普段から対話を心掛けています。

―農業の現状に一石を投じたいとのことですが、目指すところを教えてください。

現在、日本で農業に従事している人の数は約200万人で、その平均年齢は66歳と言われています。これは誰が見ても、未来に不安を覚えるデータですよね。この先5年10年の間に、農業人口は必然的に大きく変わっていくでしょう。考えられるシナリオの一つは、高齢化で農業を離れる人が増え、輸入作物に置き換わっていくというもの。もう一つは、何かのきっかけで日本の若者が農業に参画し、担い手が次世代に移っていくというシナリオです。どちらがよいのか意見はいろいろありますが、私自身は後者の未来を実現させたいと考えています。

日本の農産物はこれまで、形や重さなどの規格ばかりが重視され、消費者のニーズをくみ取れていない現状がありました。それを見直し、消費者の声と野菜の個性のそれぞれに真摯に向き合って農業に取り組めば、収益はきちんと上げられる。その実例を私たちは作りたいと思っています。NKアグリの取り組みを知って、「農業にはまだまだポテンシャルがあるな」「ビジネスとして魅力的だな」とチャレンジする人が1人でも多く出てきてほしい。そう願って私たちも挑戦を続けています。

まったく違う価値観に自分から出会いにいこう

―転職を考えている読者の方に、アドバイスやメッセージをお願いします。

企業のライフサイクルが短くなっている現代では、同じ会社でずっと仕事を続けていくことは考えにくくなっています。必要に迫られて転職する、という事態になる前に、キャリアの早めの段階で転職を経験しておいた方がいいというのが私の考えです。

子ども時代に何度も引っ越しや転校をしたとお話ししましたが、新しい場所になじむ努力を重ねた経験は、今の自分の強みになっています。転職も同じで、まったく違う環境に身を置くことで、キャリアを築く上で不可欠な「変化に対応する力」は磨かれていくはずです。

人生には、不確実な状況で何かを判断しなければならない局面が1度ならず訪れます。岐路に直面したときに、決断できる人とできない人とでは、その後の人生は大きく変わってくるでしょう。転職は、その第一歩だと捉えて、守りに入らずに決断することが大切だと思います。

―岐路で決断できるようになるために、普段からできることはありますか。

視野を広げるためにも、20~30代の若いうちにこそ、いろいろな人と積極的に会って話すことをおすすめします。世の中には、思考の軸や価値観が自分とは驚くほどかけ離れた人が存在します。それを頭でわかったつもりでいるのと、実際にその相手と面と向かって話してみるのとでは、まったく違う。早いうちにその体験をした方がいいと思います。

近年、多様性の大切さがよく言われますが、「多様性の尊重」とは、共感し理解し合うことではありません。共感も理解もできない相手がいて当たり前です。大切なのは、一人ひとりの人生のベクトルも、生きる目的もまったく違っている状態を、そのまま内包して受け入れられるかどうか。ベクトルは違ったままで、でも必要に応じて目標に向かって力を合わせられるかどうか。真の多様性を理解するためにも、普段の仕事や活動の範囲からできるだけ遠く離れた場所に自分から出向き、人と会って話すことを大切にしてほしいですね。

―素晴らしいメッセージを、ありがとうございました!

text: Aya Ito(RhythBiz)

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