「仕事を平易な言葉でひも解くと、軸が見えてくる」| NKアグリ株式会社 代表取締役社長 三原 洋一氏(前編)

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ノーリツ鋼機株式会社の社内ベンチャーとして2009年に設立されたNKアグリ株式会社。野菜の生産や流通において独自のシステムを確立させるなど、農業に新たな風を呼び込み注目されています。会社設立時から関わる代表取締役社長の三原洋一さんは、農業未経験でこの世界に飛び込み、挑戦を続けてきました。大幅なキャリアチェンジの経緯や、その根底にある仕事への思いをお聞きしました。

三原 洋一| みはら・よういち

LED照明開発のベンチャー企業などを経て、2009年にノーリツ鋼機グループの新規事業開発を担うNKリレーションズ株式会社(現NKリレーションズ合同会社)に転職。同年、NKアグリ株式会社を創立し、まったくの未経験から野菜の水耕栽培事業をスタート。3年で事業を軌道に乗せ、現在ではこの分野で国内有数規模へと成長させる。2012年より現職。

変化への欲求に正直に、転職を選択

―8年前、農業経験ゼロで農業ベンチャーを立ち上げられました。それまでの経歴を教えてください。

前職は、LED照明開発のベンチャー企業で商品企画や営業を担当していました。当時はちょうど、LEDがそれまでの装飾用から、照明にも使われ始めた時期です。どのようなLED照明が求められているのか、建設会社などのクライアントからニーズを聞き取りながら商品を企画していく仕事でした。

設立されて数年の若い会社で、待っていれば仕事が降りて来るという環境ではありませんでした。営業相手も決まっておらず、誰がお客さんかを自分で考えることから求められます。自由度の高い環境は私の性に合っていて、ベンチャーならではのスピード感もあり、日々の仕事に面白さを感じていました。

一方で、ベンチャーゆえの限界にも直面しました。ベンチャーの限られたリソースでは、全予算を投じてようやく1種類のプロダクトを作るのが精いっぱい。それに対し、大手メーカーは何百という製品ラインナップや全国規模の代理店網を持ち、とうてい太刀打ちできません。勝負できる環境に移りたい、という思いが芽生えてきました。

そんなとき、仕事を通して交流があった今のノーリツ鋼機の代表である西本から、ノーリツ鋼機が「第二の創業」に取り組むという話を聞きました。新規事業の候補の中にLED分野があり、これまでの経験を生かせるのではないかと考えて、グループの新規事業開発を担うNKリレーションズへの転職を決めました。その時点では、自分が農業に関わることになるとは想像もしていませんでした。

―「第二の創業」という点に不安はなかったのでしょうか。

確かに「第二の創業」とは、見方を変えれば本業に限界が生じている状況です。ノーリツ鋼機は本業である写真現像機の市場縮小に直面し、事業の転換を余儀なくされていました。少なからず不安はありましたが、私が加わるのは、その大きな課題を解決することが目的。困難な状況の中で自分たちがどれくらいやれるか、挑みがいがあると感じたのです。

そもそも転職において、「絶対にうまくいく」という100%の保証はあり得ません。仮に、成長著しい会社に転職したとしても、何らかの不確実性や不安は必ずつきまといます。仕事のやりがいや職場の人間関係にしても、感じ方は人それぞれで、「誰にとっても完璧な環境」はまずありません。不確定要素やリスクがありながらも、自分で決めるしかないのです。

私自身は、万全の答えが用意されている環境よりも、自らの努力の余地が大きい環境に魅力や面白さを感じる性格です。何より、変化への欲求が常に私の中にあり、それが転職という選択につながりました。

―変化することを望むその価値観は、どこから来ているのでしょうか。

父の影響が大きいのかもしれません。製造業に携わっていた父は、その世代には珍しく転職を3回ほどしています。工場から工場への転勤も多かったので、私は小学校だけでも3回替わったほど、引っ越しや転校を繰り返しました。そんな環境で育ち、いつしか父の「ものを持たないことが最上のぜいたくだ」という考え方が自分自身にも根付いていった気がします。

仕事を変えたい、あるいは何か変化を起こしたいと思ったときに、それまで築き上げてきたものに縛られて新しい一歩を踏み出せないのは、人生の不幸であるというのが父や私の考え方です。仕事を変えたいという気持ちが芽生えたら、どうするか迷うのではなく、「変える」という前提で動きだす。踏み出せない理由を探し、それを取り除いていくのです。そうやって興味の赴くままに変化を選び取りながら生きていく人生が、私にとっての理想です。

あえてシンプルな説明書きで参画者を社内公募

―ご自身も想像していなかった「農業」に関わり始めた経緯を教えてください。

NKリレーションズでは当時、さまざまな新規事業の候補がリストアップされていて、その一つが植物工場事業だったのです。「これ、面白そうですね」と何気なく言ったところ、「じゃあお前に任せるよ」と。そんな成り行きで私が担当することになりました。それまで農業に関わった経験はまったくありません。しいて言えば、私は田舎育ちで、田んぼのあぜ道を通って学校に通っていたので、心の中の原風景とリンクするところはあったかもしれません。自然に触れる仕事をしたいという漠然とした思いもありました。

新規事業のスタートに先立ち、ノーリツ鋼機の和歌山工場で働く全社員を対象に、参画してくれる人を募りました。公募要項は「農業を始めます。興味のある人は応募してください」という非常にシンプルなもの。これには理由があります。新規事業を進めていく上では、自分のアイデアを持って仕事に臨んでくれる人が必要でした。

漠然とした内容の公募要項を見て、その余白の多さに魅力を感じてくれる人なら、価値観を共有できるはずだと考えたのです。公募の結果、私と同様に農業経験ゼロの7名の手が挙がり、NKアグリの事業がスタートしました。

―LEDから農業へ。三原さん自身にとっても大幅なキャリアチェンジですね。

大きく方向転換したように見えるかもしれませんが、実は私の中では一貫性があります。前職がLEDのベンチャーとお話ししましたが、さかのぼるとその前はデザイン会社で進行管理を務めていました。3社ともそれぞれ業種も職種も違いますが、やってきた仕事はどれも「多様な人が働いている環境を適切に取りまとめる」「雑多になっている物事を整理して方向づけ、成果物を世の中に出していく」という点で共通しています。これが、現在に至るまで私が一貫して仕事で生かしてきた能力です。

このように、自分が担っている業務や、自分が得意と感じていることを易しい言葉で言い換えてみると、自らの強みや軸は見えてくるものです。例えば「人の話を聞く」や「人にわかりやすく伝える」を得意とする人もいるでしょう。軸が見えてくれば、応用が利くキャリアはたくさんあり、業種や職種の枠を超えて選択肢は大きく広がります。

自分の中でキャリアの一貫性を見いだせていれば、人から「なぜまったく違う道に進んだのか」と疑問を持たれても、「私にとっては違わないんです」と自信を持って言えるし、相手も納得してくれます。自分のキャリアをできるだけ簡単な言葉で、抽象的に捉えてみることが大切だと思います。

全員未経験から手探りで農業をスタート

―社員全員が農業未経験でスタートしたNKアグリ。最初は失敗も多かったとか。

レタスの水耕栽培に着手したものの、最初の3年間はうまくいかないことばかりでした。大部分を枯らせてしまうような、壊滅的な打撃も数え切れないほど。農業の知識も経験も何もないので、トライアンドエラーを繰り返しながら、手探りでやっていくしかありませんでした。

並行して、メンバーの意識を変えていくことにも努めました。集まった7人は、慎重にものごとを進めるタイプの人が多く、「負けないことが正しい」「間違えてはいけない」という大企業的な意識が根付いていて、それをまずは取り払ってもらう必要がありました。既存のやり方を真似たり、失敗を恐れて安全策をとったりしていては、新規事業で世の中に新しいバリューを出していくことはできないからです。親会社のノーリツ鋼機とは違う、NKアグリのカルチャーを一から作り上げていくことに最初の1年は特に悪戦苦闘しました。

農業初心者の8名で野菜栽培事業に乗り出したNKアグリ。失敗続きの日々を超えて、事業を見事に軌道に乗せられた秘訣とは。続きは<後編>へ

text: Aya Ito(RhythBiz)

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