グリー株式会社の共同創業者であり、現在、ベンチャーキャピタル株式会社慶應イノベーション・イニシアティブの代表取締役社長である山岸広太郎さん。華々しいキャリアに見えますが、現在の地位を築くまでには、どのようなキャリアを歩んできたのでしょうか。きっとそのキャリアの中から学ぶことも多いはず。山岸さんのこれまでの転職エピソードや、20代~30代のキャリア形成を考える上で大切なことをお聞きしました。
山岸広太郎| やまぎし・こうたろう
株式会社慶應イノベーション・イニシアティブ代表取締役社長。グリー株式会社取締役(非常勤)。
慶應義塾大学経済学部を卒業後、日経BP編集記者、CNET Japan編集長を経て、グリーを共同創業。10年間、同社の副社長として事業部門などを統括。2015年12月、株式会社慶應イノベーション・イニシアティブの設立と同時に代表取締役社長に就任。
インターネットに計り知れない可能性を感じ、インターネット業界へ
―新卒で日経BPに入社されています。それまでの経緯についてお聞かせください。
僕が大学に入学した1995年は、ちょうどWindows95が登場し一般的にインターネットが普及しはじめた頃でした。パソコンを購入し、自宅や大学でインターネットに触れるうちに、インターネットに計り知れない可能性を感じたんです。インターネットによって世の中が変わるかも知れない、かつての産業革命のようなことが起こるんじゃないかと。だったら自分も、何かしらの形でそれに関わりたいという気持ちがずっとありました。
その気持ちをさらに強くしたのは、大学3年生の時に、大学の仲間3人で、シリコンバレーに行ったことです。若者たちが作った会社が盛り上がっているのを見て、僕も世の中を変えるような仕事に関わりたいと強く思い、帰国後、3年生の終わり頃から、「ネットエイジ」というベンチャー企業でインターンを始めました。これがめちゃくちゃ面白くって。後に一緒にグリーを創業することになる田中と知り合ったのも、このネットエイジでした。
―そこからなぜ、最初の就職が日経BPだったのでしょうか?
そのままネットエイジに残るという選択肢もあったのかも知れませんが、就職して“ちゃんとした会社”というものを、一度は経験したほうがいいんじゃないかという気持ちがありました。でも、自分が好きなことじゃないと毎日働き続けるのは難しい。そこで、インターネットに関われそうな会社を考えてみたところ、日経BPは当時から情報配信サイトを持っていて、インターネット業界では人気が高かったんです。
中高生の頃から日経BP発行のビジネス誌が家にあって読んでいたので親しみがありましたし、自分が興味のある洋書を翻訳していたのも日経BPでした。記者や編集の仕事が面白いかどうかはわかりませんでしたが、とりあえず日経BPなら自分の興味と合致しそうだと思い、入社を決めました。
ですが、最初に配属されたのは、パソコン雑誌(紙媒体)の編集部だったんです。インターネットに関わることができないつまらなさや、当時自分が任されていた仕事に見合わない高待遇に悶々としていることを上司に打ち明けたら、なんと、今度インターネット専門の開発部署を立ち上げることになったということで兼務させてもらえることに。1年目の半ばからは紙媒体の編集部とインターネット事業開発部の兼務、2年目からは、インターネット事業開発部専属になりました。
―今、日経BP時代を振り返ってみて、いかがですか?
日経BPには、大きく「編集」「広告」「販売」という3つの職種があるのですが、普段、この3つの職種が絡むことはあまりないんです。ですが、早いうちから開発部門に身を置かせていただくことで、出版ビジネスに対する知見を高めることができました。また、プロジェクトを任される中で、自分をかなり限界まで追い込んで仕事をしたので、自分の能力や、自分のできることできないこと、得意不得意を知ることができたのも大きな収穫だったと思います。
未知のキャリアへの挑戦―「CNET Japan」の立ち上げ
―3年8ヶ月で、日経BPを退社し、編集長として「CNET Japan」の立ち上げに参加することになります。転職を決めたポイントは何だったのでしょうか?
入社3年目の時に、インターネット事業開発部がインターネットと紙媒体の両方を扱うようになってしまったんです。さらに、社内事情も重なって、何となくまた紙媒体専門の編集部に異動になりそうな雰囲気を感じていました。そんな時、IT系ベンチャーの交流会で知り合ったのが、シーネットネットワークスジャパンの社長である御手洗さんでした。アメリカのIT系ニュースサイト「CNET」の日本版「CNET Japan」の立ち上げに、編集長としてこないかと声をかけてくださったんです。
日経BPにこのまま居続けた場合のキャリアと「CNET Japan」編集長としてのキャリアを比べてみたときに、「CNET Japan」でのキャリアは全く想像がつかなかった。だからこそ面白そう!と強く惹かれました。
―日経BPを辞めることへの不安はなかったのですか?
安定した大企業を飛び出すことに対し、不安がなかったと言えば嘘になります。僕が転職を決めた2003年当時は、今ほど転職が当たり前ではなかった時代です。会社の人に相談しても反対されるのはわかりきっていましたし、むしろ相談するのも憚られるような雰囲気がありました。
唯一相談をしたのは、ITコンサルタントの梅田望夫さんです。梅田さんとは、学生時代にシリコンバレーに行った時に、大学の先生に紹介してもらって以来仲良くさせていただいていて、日経BP時代には、僕が編集を担当し記事を書いてもらったこともありました。梅田さんに相談したところ、「インターネットに興味があって、そうやって声がかかるのであれば、チャレンジしたほうがいいんじゃないか」と背中を押していただき、それまでの不安や迷いが吹っ切れました。
その後も梅田さんには、キャリアの節目節目でアドバイスいただくことが多く、僕にとってメンターのような存在です。
ゼロからの立ち上げで勝ち抜くために
―実際に「CNET Japan」の編集長として転職してみて、ご自身はよかったと思われましたか?
「CNET」を運営するシーネットネットワークス(CNET Networks, Inc.)は、当時アメリカで1000人規模の会社でしたが、日本ではゼロからの立ち上げ。編集部は、僕含め6人でのスタートでした。しかも、転職してすぐに、重大な問題が発覚しまして。アメリカのシーネットネットワークスが、同じくアメリカのIT系ニュースサイトである「ZDNet」を買収したことにより、「CNET」と「ZDNet」という2つのサイトでまったく同じ記事が配信されることになったんです。
「ZDNet」の記事は、当時日本では「ZDNet Japan」として、他社が翻訳し運営していました。僕らが新しく立ち上げた「CNET Japan」では、日本の取材記事も掲載しますが、「CNET」の翻訳記事を付加価値にしようと思っていたので、他サイトに同じ記事が載っていたら、それは付加価値にはなりません。正直「ハメられた!」と思いましたね(笑)。しばらくは、夜2時に寝て、朝4時に目が覚めてしまうような精神的にもつらい時期が続きました。
でも、もう転職してしまいましたし、ここで結果を出していくしかありません。そこで、限られた予算の中で「CNET Japan」が勝ち抜くための3つの施策を打ち出しました。
ひとつは、英文記事の全文を翻訳するのではなく、冒頭のサマライズのみを翻訳し、掲載本数とスピードで勝負に出たこと。ふたつ目は、当時まだメディアでは取り入れられていなかったブログをどこよりも早く取り入れ、識者のコラムを発信。加えて、トラックバックを導入することで、他メディアよりもインターネットにおいて先進的なことをしているというブランドイメージを作り上げました。そして3つ目は、ログ分析です。他のメディアが扱わないような話題も、ログを解析しページビューが望めそうな記事はすべてカバーして行きました。
この3つの施策を打つことで、トラフィック数が増えはじめ1年目の終わりには「CNET Japan」を軌道に乗せることができました。
夜も眠れぬほどの問題を抱えながらも、わずか1年で「CNET Japan」を軌道に乗せた山岸さん。次は、いよいよグリー創業の道を歩むことになります。続きは<後編>へ。
text : Yuko Kugimiya(RhythBiz) photo :Kenei Sato
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